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福岡地方裁判所 平成元年(行ウ)20号 判決

福岡県遠賀郡遠賀町上別府蓮角987番地3

原告

力武忠裕

右訴訟代理人弁護士

元村和安

福岡市博多区博多駅東2丁目11番1号

被告

福岡国税局長 野口卓夫

右訴訟代理人弁護士

辻井治

右指定代理人

坂井正生

外3名

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が,昭和62年2月26日付けでした原告の昭和56年分,昭和57年分,昭和58年分,昭和59年分,昭和60年分贈与税の各決定処分及び無申告加算税の各賦課決定処分は,いずれもこれを取り消す。

2  訴訟費用は被告の費用とする。

二  本案前の答弁

主文同旨

第二当事者の求めた裁判

一  請求原因

1  (被告の処分)

被告は,原告に対し,いずれも昭和62年2月26日付けで,別紙記載①,②のとおりの贈与税の各決定処分及び同記載③のとおりの無申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各処分」という。)をした。

2  (審査請求経由)

原告は,本件各処分を不服として同年4月13日被告に対し異議申立をしたところ,被告は,同年7月9日付けで異議申立を棄却し,その決定書の謄本は,同月11日送還されたので,原告は,同年8月11日,国税不服審査所長に対し審査請求をしたところ,国税不服審判所長は,平成元年6月16日,別紙記載④,⑤,⑥のとおり原処分の一部を取り消し,その余の審査請求を棄却する旨の裁決をした。

3  (本件各処分の違法性)

本件各処分は,原告が何ら贈与を受けたことがないのになされており,違法である。

よって,本件各処分の取消を求める。

二  本案前の抗弁

贈与税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分は,税務署長の固有の権限であり(国税通則法25条,33条),これらの処分は,処分をする際における当該国税の納税地を所轄する税務署長が行う(同法30条,33条)ものであるところ,本件各処分については,若松税務署長が,その固有の権限に基づいて行ったものである。

したがって,本件訴えの被告適格を有するのは,若松税務署長であって,被告ではない。

三  本案前の抗弁に対する原告の主張

本件各処分は,被告がしたものであって,当然被告適格が認められるべきである。

すなわち,原告の審査請求に対して,被告は,「原処分庁の主張」との記載のある答弁書をその名義で提出して,自らが本件各処分をしたことを認めているといえるし,また,国税不服審判所長も,右と同様の見解から,右答弁書を「原処分庁」から提出された答弁書として,その副本を原告に送付している。

第3証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから,これを引用する。

理由

一  本件訴えの違法性について判断するに,処分取消の訴えは,行政事件訴訟法11条1項により,処分をした行政庁を被告として提起しなければならないところ,原告は,福岡国税局長を被告として,本件各処分の取消を求めているものであるが,本件各処分についての処分権者は,若松税務署長であることが,国税通則法25条,30条,33条及び弁論の全趣旨により認められるところであって,被告は本件各処分をしたものではないというべきである。

これに対して,原告は,本件各処分は被告がしたものであると主張し,その根拠としては,原告が本件各処分いついて,国税不服審判所長に審査請求をしたところ,これについての答弁書(いずれも成立に争いのない甲第2ないし6号証)を被告がその名義で「原処分庁の主張」と記載して提出したことや,これらの答弁書の副本を国税不服審判所長が,「原処分庁」から提出されたものとして,その副本を原告に送付したことなどから,被告及び国税不服審判所長において,本件各処分の処分権者が被告であることを自認していたことを挙げている。

ところで,原告が主張する国税不服審判所長に対する審査請求についての答弁書を提出すべき「原処分庁」については,国税通則法93条が規定しており,同条1項によれば,審査請求の目的となった処分に係る行政機関の長がこれに当たるとされているが,国税局の職員が調査をした旨の記載がある書面により通知された処分の場合には,当該処分をした税務署長ではなく国税局長がこれに当たり,この場合においても,当該国税局長を「原処分庁」というとされ,さらに,同法は,右の場合には,審査請求に先立つ異議申立についても,国税局長に対してなしうるものとしているのである(同法75条2項1号)。

本件においては,原告は,異議申立は国税局長に対してしたと主張するのであり,正に右の場合に当たるのであるから,被告が審査請求に対して,原処分庁として答弁書を提出し,その副本を国税不服審判所長が原告に送付したのは,右規定に基づくものであり,原告の主張する「原処分庁」とは,同法93条に規定するものをいうにすぎない。

すなわち,本件各処分をした若松税務署長の上級庁である福岡国税局長が同法の規定に基づき審査手続に関与したとしても,そのことから,行政事件訴訟法上の被告適格を有するものが本件各処分をした若松税務署長であることに何らの影響を及ぼすものではなく(国税通則法114条参照),原告の主張は独自の見解として採用することができない。

以上から,本件において,被告には被告適格がないことが認められる。

二  よって,本件訴えは不適法であるからこれを却下することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法89条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 寒竹剛 裁判官 五十嵐常之 裁判官 島田睦史)

〈以下省略〉

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